business boy

文章にイラストを添えた何かをかいていく予定になっている場所です

深夜のエレベーター

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おまえのくちびるの、上と下を、やさしくひらく。
その先には、深夜のエレベーターがある。

左手でくちびるの上、右手でくちびるの下、その上下を支えながら、そのあいだに首をつっこむ。くちびるの黒い夜。その向こうは暗い闇。それは目を慣らしても暗い。ぴちょぴちょ、と、何かが頭に落ちる。
上を見上げると、ささやかな、雨が降っている。私の耳に、ささやきかけるような、リズムで、ぴちょぴちょ、と垂れ落ちる。目の前には赤くやわらかなものがあって、そこに私は自分の舌をのせる。舌とその赤いものは、火星の蛞蝓を彷彿とさせ、ねとねとと抱き合う。エレベーターが始動する。それらはらせんのようにねじれ抱き合いながら上を目指す。上へ、上へ、上へ、上へ、上へ。私の舌は雨にぬれ、ねじれながら上へ。そしてそれはやがて見えなくなった。

私は振り返る。暗闇の中にたらこのような蛞蝓のような暗い赤。私は左手でくちびるの上、右手でくちびるの下を持ち、やさしく、やさしく開く。おまえの目は、そこにいるみんなが息をひそめて2F、4F、7F、11F、とエレベーターの階数表示を見上げるように上を見る。私はやがて振り返らず、前を歩く。おまえの目は、それからまた上へ。私は歩き、おまえのめはどんどん上へ。小さい頃に、ほら、私が転がしてた、舌で転がるあめだまを思いだす。

外は明るい。晴天だ。雲一つない。私は歩く。太陽が照りつける。やがて、どうやら、昇っていった私の舌は、かすかに到着を知らせる音とともに、目的の階にたどりつく。エレベーターは開き、舌は太陽と大空にさらされる。大地の息吹がきこえるだろうか。昔は名前を持っていなかった鳥が羽ばたく。赤い舌は青い空にまじりながら、やがてぐにゃぐにゃに溶けはじめた。晴天はなにごともなかったような顔をしてうらがえっている。晴れの姿をした雨が見える。
私の口元はひりひり。
私はあるく。舌はとける。私はあるく。舌はとける。
舌はやがてとけつくし私もやがてあるきつくした。